社長や経営者の相続では、一般の相続とは異なる特有の問題があります。自社株については、誰が株式を引き継ぐかによって経営権が変わってきます。また役員貸付金や借入金など会社と社長個人間での金銭関係が相続に影響してきます。
経営者特有のこうした課題を放置することは、相続トラブルに発展し、会社の継続に支障をきたす恐れがありますので、注意が必要です。
社長の相続においては、これら特有の課題の解決手段として、事前に「民事信託」を活用した対策を行うことが有益です。
民事信託とは、財産を信頼できる人(受託者)に託し、受託者が指定した目的に従って財産を管理・処分をするという財産管理の方法のことをいいます。
民事信託では、信託する財産について、「利益を受ける権利」と「財産を管理・処分する権利」の2つに分けることができます。財産を提供する人(「委託者」(社長)といいます。)から、「利益を受ける権利」を有する人を「受益者」といい、「財産を管理・処分する権利」を有する人のことを「受託者」といいます。
この仕組みを使うことによって、生前から相続や事業承継のための社長の財産管理が可能になります。
社長が持っている自社株を信託することで、経営権の分散や争いを防ぐことができます。
自社株には、会社経営に関する経営権と配当や財産を受け取る財産権の2つがあります。経営権を後継者に引き渡し、他の相続人に対して財産権の承継でバランスをとることにより、スムーズな事業承継が実現できます。
社長が個人で持っている不動産などを会社に貸している場合、その不動産も信託財産の対象とすることにより、相続争いや事業運営が停滞してしまうリスクを減らくことができます。
また信託をすることにより、共有状態や分割困難な財産の承継トラブルを防止することができます。
社長の相続だけでなく、不慮の事故や病気などにより、認知症になってしまうこともあります。認知症により正常な判断が難しくなると、会社経営に大きな影響を与えます。
信託を活用することにより、認知症になってしまっても、財産凍結を回避し、受託者が管理継続できるよう設計することができます。
社長の相続のときに、相続人間での遺産分割協議が必要なく速やかに後継者へ自社株の承継が可能になりますので、経営の空白期間を生じさせない事業承継が実現できます。
また判断能力低下時に自社株の議決権の指図権を後継者に承継させることで、社長の万が一のときの備えとすることができます。
自社株を、贈与や売買等で一旦後継者に承継させたあと、やはり後継者として不適格ということで後戻りすることは、資金負担等の面からも容易ではありません。
民事信託では、後継者が不適格と判断されれば、民事信託契約を解除すればよく、後継者がもっていいた経営権ももとの経営者戻るだけです。贈与税等資金も必要ありません。
遺言で後継者を指定しても、さらにその次の後継者までを決めることはできません。
民事信託では、先々の承継まで指定することができます。「自分の死後は長男、その後は長女の子息」など、複数先の世代にわたって、事業承継の意思を反映させることが可能です。
民事信託では、契約は通常長期にわたります。その間に関係者の意向が変わったり、予期せぬ出来事により、トラブルが発生することもあります。
信託契約の内容次第では、トラブルの引き金になりかねないので、専門家とよく相談のうえ、慎重に決めることが重要です。
民事信託は、昔よりは利用者が多くなっていますが、遺言や生前贈与などと比較するとまだまだ知名度が低いのが現状です。
民事信託への理解が深まらず、「よくわからないから使わない」という選択をしてしまうことが少なくありません。民事信託を利用したことによるメリットや仕組みをわかりやすく説明し、理解と協力を得ることが大切です。
社長の相続の対策として、民事信託を活用する場合に、設定の仕方としては、
① 信託契約を結ぶ
② 遺言書に信託を記載する
③ 自己信託宣言する
という方法があります。
信託契約を締結する方法です。委託者(社長)と受託者との間の契約をします。受託者には、信託銀行や信託会社などがなる場合や、後継者が受託者になる場合などがあります。
信託契約によって、利益を得る立場の受益者は契約の当事者ではありません。
遺言書に民事信託の内容を記載し、遺言の効力発生とともに民事信託の効力を発生させる方法です。
遺言による信託ですので、委託者が亡くなったときに効力が生じるため、社長としては信託の効力が発生したことを自身で確認することはできないことになります。
自己信託宣言とは、社長自身が委託者と受託者を兼任する方法です。
自己信託宣言をすることで、社長自身の固有の財産と切り離して管理することができます。
通常は、公正証書によって作成します。公正証書を作成することにより、自己信託の効力が発生します。
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